過敏性腸症候群・機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)

機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシアは、日本消化器病学会の機能性消化管疾患診療ガイドラインによると「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義されています。検査をしても、胃に症状の原因になる潰瘍やがん等が認められないにもかかわらず、胃もたれや痛み等のつらい症状がみられる症候群です。症状は、大きく分けると下記の2つであり、いずれか自覚する場合が多いです。

食後愁訴症候群

食事に伴い起こるタイプになります。胃もたれや食後すぐの満腹感、嘔気、げっぷ等などがみられます。

心窩部痛症候群

胸~上腹部に痛みを感じるタイプになります。心窩部痛や心窩部が焼けるような感じなどがみられます。その他に、喉の違和感や胸辺りの違和感、背部痛、咳などを感じられる場合が多いです。

検査

機能性ディスペプシアと診断するためには、食道や胃などに症状の原因になる器質的な病気がないことの確認を目的にして、検査を行います。問診、採血、腹部レントゲン検査、内視鏡検査、腹部超音波検査等が症状に合わせて選ばれます。

胃カメラ

診断

定義が難しい病気です。しかし、ガイドラインによると、6か月以上前から上記であげた症状のほか、

  1. つらいと感じる食後のもたれ感
  2. つらいと感じる早期飽満感
  3. つらいと感じる心窩部痛
  4. つらいと感じる心窩部灼熱感

1つ以上があり、直近の3か月間もその症状が起きている、そのうえで胃カメラにより、症状の原因になる器質的疾患を認めないことで診断されます。

原因と病態

原因は、まだ分からないことが多いです。食事因子や腸内細菌叢および微小炎症、感染、酸分泌異常、遺伝的背景、精神・心理的ストレスなどが複雑に関わっているといわれています。病態は、食道や胃の運動異常、内臓知覚過敏があげられます。胃の運動機能の異常や胃酸の出すぎ、胃の内容物の停滞、痛みを感じやすくなっている状態に、食習慣などの生活習慣の乱れとストレスが加わり、症状が現れるといわれています。また、思春期のお子さんや女性の場合はホルモンバランス、精神的ストレスなども影響しているといわれています。

治療方針

まずは、医師が患者さんの症状を傾聴します。次に、上部消化管の機能的変調により、起こる病気であり、生命予後の影響が低いことや患者さんのつらいと感じられる症状を医学的に対応が必要な病態として受け止めて、治療方針が立てられることを説明していきます。この説明により、患者さんと医師の信頼関係を構築することが治療において大切です。そのうえで、食事や生活指導、薬物療法と患者さんの症状に合わせて、適切に組み合わせることが治療の成功への鍵になります。つらい症状がある場合、まずは下記の薬物療法を行い、食事や生活習慣の指導をして総合的に治療を行います。

機能性ディスペプシアにおける薬物療法

消化管運動機能改善薬

現在は、様々な消化管運動改善薬があります。使い分けと組み合わせが大切です。これらのお薬は、低下または亢進した胃腸の運動機能を正常な状態に近づけます。

胃酸分泌抑制薬

プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬の効果についてのエビデンスは多く、効果があることが報告されています。胃の動きが低下して、本来、食べたあとすぐに蠕動して、胃内の食物が腸に移動することが妨げられている場合が多いです。二次的に、逆流性食道炎を伴っている場合がほとんどです。そのため、逆流性食道炎の治療に効果的なH2受容体拮抗薬やPPI等を適切に使用することが大切です。

漢方薬

漢方薬のなかには、胃の動きや食道、胃の知覚過敏に効果がみられるものがいくつかあります。特に、六君子湯は、機能性ディスペプシアの治療に効果があることを臨床試験により証明されています。

抗不安薬

精神的な要因が強い患者さんに効果がある場合が多いです。軽い不安や緊張に効果的であり、消化器機能のストレス反応をやわらげる作用があります。当院では、精神的な要因が内科診療の範囲を超えると判断された場合は、心療内科へのご紹介を行うこともあります。

食事、生活指導 

薬物療法すると同時に、食事、生活習慣改善の指導を行います。生活習慣では、運動不足や睡眠不足が大きな要因になります。食事習慣は、早食い、食べすぎ、食事を抜く、食事時間が不規則、食事内容の欧米化の傾向が散見できます。これらを見直し、改善していくことが大切です。また、食べ物の種類としては、脂っこいものとの関連が多く、摂取する食べ物も指導していくことが大切です。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは 

過敏性腸症候群とは、大腸、小腸に症状の原因になる炎症やがん等の器質的な病変がないのに、お腹を中心とした症状がみられる「症候群」です。症状は傾向で分けて、下記の4つのサブタイプがあります。

  • 便秘型 腹痛や張りを伴う便秘
  • 下痢型 腹痛を伴う下痢が頻回である
  • 混合型 便秘と下痢を繰り返す
  • 分類不能型 腹痛のみ、膨満感等の上記にいずれも当てはまらない

原因、病態

機能性ディスペプシアと同じく、発症原因は、まだ分からないことが多いです。多くの場合は、疲れ、不安や緊張等の精神的ストレス、不規則な生活等の肉体的ストレスが原因といわれています。症状が学校や仕事等の日にだけ出現する場合もあります。機能性ディスペプシアと同じく、消化管の機能異常や運動異常、知覚過敏、ストレス等が複雑に影響しあって発症するといわれています。

検査、診断

検査は、症状の原因になる器質的な疾患がないか調べる目的で行います。採血や便の検査、腹部レントゲン検査、大腸カメラ検査、腹部超音波検査等です。診断は、機能性胃腸疾患の世界的定義であるRome Ⅳ基準に基づき、症状の原因になる炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病、がん等の器質的疾患がなく、お腹の不快感や繰り返される腹痛等が最近3か月のうち少なくとも週に1日以上あり、さらに腹痛が

  • 排便により軽快する等、排便に関連する
  • 排便回数の変化により始まる等、排便頻度の変化に関連する 
  • 便形状の変化で始まる等、便性状に関連する

上記3項目のうち2項目以上を満たすことが診断基準になります。

さらに、少なくとも診断の6か月以上前に症状が出現して、最近3か月間は基準を満たす必要があるとされています。これらを総合して、過敏性腸症候群と診断します。

治療方針

治療目標は、患者さんの報告による主症状の改善が得られて、低下した生活の質を向上させることです。治療には、消化管主体の治療の第1段階、中枢機能の調節を含んだ治療の第2段階、心理療法の第3段階があります。

第1段階の治療 

患者さんに病態の説明を丁寧に行います。患者さんと医師が信頼関係を構築して、症状の強さやタイプ、特に悩まれている症状、ライフスタイルなどに合わせて、生活習慣指導を行います。個人の症状にあったきめ細かい薬物治療を行います。過敏性腸症候群の治療薬は様々です。患者さんの症状を丁寧に確認して、様々なお薬を経験に基づき処方します。生活習慣の改善は、食事内容や食事の摂り方、運動、排便習慣等を無理しないで続けられるように、サポートを行っていきます。

第2段階の治療

患者さんのストレスや心理的異常の関与を評価して、不安またはうつの関与を評価します。病態により、抗不安薬や抗うつ薬を使用することも視野に入れます。第1段階の消化管に作用する薬と併用することが多い段階になります。

第3段階の治療

薬物療法による効果がない場合は、心理療法を行います。心療内科的なアプローチが必要かどうか判断する段階になります。この段階の治療が必要と判断された際は、適切な心療内科をご紹介させていただきます。過敏性腸症候群は、特殊な病気ではなく、日本人の場合は、全人口の約10〜20%がかかっているといわれています。当院では、治療を希望する患者さんのほぼ99%は、第1段階の治療により、症状の改善がみられています。

機能性胃腸疾患である機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群について

生活習慣の乱れやストレスにより、発症したり悪化する場合が多いです。生活習慣の改善やストレスへの対処は、治療においても大切になります。症状は、薬物療法でやわらげます。さらに、発症や悪化を避けるために、無理のない生活習慣改善の指導をさせていただきます。体質やライフスタイル、悩まれていることなどに、きめ細かくあわせた治療を行います。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。機能性胃腸疾患である機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群は、20年前までは、病気の概念が確立されていないため、医療者に治療の必要性が認識されておらず、症状の原因になる炎症や潰瘍、がん等の器質的疾患がなければ、治療すらされませんでした。当院では、治療経験が豊富な消化器内科専門医が潰瘍性大腸炎やクローン病、消化性潰瘍、がんなどとともに、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群もしっかりみていきます。症状の原因になる器質的な要因がないことを確認したうえで、詳しい問診や症状の経過観察、診断を行って、患者さんのライフスタイルや悩まれていることにあわせた治療を行います。お気軽にご相談ください。